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東京高等裁判所 昭和26年(ラ)296号 決定

抗告人 相手方 岸田順一

訴訟代理人 瀬崎信三

相手方 申請人 藤原元治

主文

原決定を取消す。

相手方の本件担保取消決定の申請を却下する。

申請費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙記載の通りである。

よつて按ずるに、相手方(債権者)は抗告人(債務者)に対する土地明渡請求権を保全するため東京地方裁判所に仮処分命令の申請をなしたところ、同裁判所は昭和二十三年五月二十七日相手方をして金二千円の保証を立てしめた上、「債務者の本件土地に対する占有を解き債権者の委任したる東京地方裁判所執行吏にこれが保管を命ず。執行吏はその現状を変更せざることを条件として債務者にこれが使用を許すべし。但しこの場合においては執行吏はその保管にかかることを公示するため適当の方法を取るべく、債務者はその占有を他人に移転し又は占有名義を変更すべからず」との仮処分決定をなしたこと、その後右仮処分事件の本案訴訟として相手方から抗告人に対し品川簡易裁判所に建物収去土地明渡の訴(同庁昭和二十三年(ハ)第三六号事件)が提起せられ審理の結果、昭和二十六年四月二十六日相手方(原告)敗訴の判決が言渡されたので、相手方から東京地方裁判所に控訴の申立をなし、現に昭和二十六年(レ)第三〇号事件として同裁判所に係属していること、他方東京地方裁判所執行吏は相手方(債権者)の委任に基き前記仮処分決定を執行した後、昭和二十三年八月二十八日相手方の申立によつて該執行を取消したこと並びに相手方は該執行の取消によつて事件は完結したものとなし、昭和二十六年五月三十日東京地方裁判所に、前記仮処分の保証として供託した金二千円について、担保取消決定の申請をしたので、同裁判所は同年六月六日抗告人(債務者)に対し、十四日以内に担保権を行使すべき旨を催告し該催告書は同月十四日相手方に送達されたが、抗告人は所定期間内に適法なる担保権行使の申出をしなかつたので、同裁判所は同年八月二十七日担保権者の同意があつたものとみなして前記担保を取消す旨の決定をなしたことは、いずれも本件記録に徴して明かである。

元来民事訴訟法第百十五条第三項による担保の取消は訴訟の完結を俟つて始めて許容さるべきものである。本件においては仮処分事件は相手方(債権者)の申請によつて該仮処分の執行は取消されたものであるから、同仮処分事件のみについて考えると、一応訴訟の完結があつたものといえるであろうが、該仮処分事件の本案訴訟が現に係属している以上は、当該仮処分の執行が債権者の申請によつて取消されたものとしても、その執行されていた期間内における仮処分による損害の有無若くはその範囲は本案訴訟の確定を俟つて始めてよく判定され得べきものであるから、たとえ仮処分命令の執行が債権者の申立によつて取消されても、これが担保については、本案訴訟の完了しない限り、未だ前記法条にいわゆる「訴訟の完結」があつたとはいいえないものと解するのが妥当である。

従つて本件においても前述の如く、本案訴訟が現に東京地方裁判所に係属し未だ完了していない以上、右仮処分が相手方の申請によつて取消されたものとするも、前記法条を適用し抗告人に権利行使の催告をなし得ないものといわなければならない。

しからば原審が相手方の申請により、訴訟の完結があつたものとして権利行使の催告をなした上、民事訴訟法第百十五条第三項に基き、本件担保取消決定をなしたのは失当である。

従つて本件抗告は理由があるから、原決定を取消した上、相手方の本件担保取消決定の申請を却下すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判長 判事 渡辺葆 判事 浜田潔夫 判事 牛山要)

抗告理由

一、相手方は右仮処分により保全された土地明渡請求の訴(品川簡易裁判所昭和二十三年(ハ)第三六号)を提起したる所昭和二十六年四月二十六日相手方敗訴の判決言渡あり、相手方は之に対し御庁に控訴し(昭和二十六年(レ)第三〇号民事第三部)目下訴訟中で未だ完結しない。

二、抗告人は担保権行使の催告に対し権利を行使する旨並目下控訴中なる旨書面を以て申述したものであるが、担保権利者に対する権利行使の催告申立は訴訟完結の後に為し得ることは民訴法第一一五条第三項により明かである。而て完結とは第一審のみならず其訴訟手続の絶対的終結を意味するもので、控訴中の場合は未だ完結したと解することは出来ない。故に権利行使催告の申立は無効であり、従て之により発せられた催告に対し担保権行使の疏明不充分なりとするも未だ取消に同意ありたるものとは解し得ない。従て之に基く取消決定も亦違法であるから其取消を求める次第である。

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